Research
イカの王様アオリイカの保全生態研究
研究の背景
世界有数のイカ消費国である日本
漁業に代表される海産生物資源は世界の食料保障を支えています.しかし漁獲量は過去30年間で劇的に減少し,特に魚類の漁獲量は近年頭打ちです.それに対してイカ類は,近年の急激な需要増加に伴って過去40年間で漁獲量は約4倍まで増えました( Jereb & Roper 2010 ).日本は世界有数のイカ消費国であり,イカ類は国民の重要なタンパク源となっています.
(写真は三重県の居酒屋にて撮影)
アオリイカ
「イカの王様」アオリイカ
私たちが研究対象種として扱うアオリイカは美味であり,「イカの王様」として愛されています.漁業においては商品価値が極めて高く,しかも沿岸域で漁獲されることから,漁家経営を支える優良資源です(奥谷1984).釣り人からも大人気であり,「餌木」と呼ばれる疑似餌を用いた釣り方(通称エギング)によって漁獲されています.
(写真は長崎県対馬でエギングにて採集,シロイカ種)
日本に生息するアオリイカ3種について
「アカイカ」・「シロイカ」・「クアイカ」
沖縄周辺,特に石垣島の漁師さんは,アオリイカの漁獲される海域や季節の違い,さらに活き締めした際の体色の違いによって,アオリイカを3つのグループ(アカイカ・シロイカ・クアイカ)に分けてきたそうです(奥谷1984; Izuka et al.1994).その後の潜水観察によって産卵生態の違いが報告され(Segawa et al. 1993),さらに3つのグループは別種レベルの遺伝的差異を持つことが確認されました(Izuka et al. 1994; 1996).
アオリイカの保全生態研究
アオリイカからの恩恵を、 これからも 享受し続けていくために
アオリイカ3種の分布,漁獲物に占める3種の割合,産卵生態の違いといった資源保全に必須である情報は南西諸島に限られており,アオリイカの漁獲量が大きい本州九州四国では不明でした.
有効な保全政策を立てる上で,漁獲されている生物種を知ることはもっとも基本かつ必須な情報です.また,実際の保全管理では,遺伝的な交流がある繁殖集団を単位として考慮することが必要です.そのため,効果的な保全単位の決定には,集団が持つ遺伝的な不均一性(集団構造)を調べ,集団と集団の境界線を明らかにすることが重要です(Sale et al. 2005).
例えば,太平洋と日本海のシロイカ間で交流はあるのか?という事です.現在までに複数の研究成果が発表されてきましたが,研究者の間で統一された見解がありませんでした.アオリイカは他のイカ類に比べて一生の間に産む卵の数が少ないことが知られています.寿命は約1年で,産卵すると親イカは死んでしまいます.アオリイカ3種の産卵生態を明らかにすることで,産卵数を増やす方策や産卵場の整備など,より効果的な繁殖サポートへ応用することできます.
3種によって産卵期,産卵水深,産卵場所が異なると考えれらていますが,未だ詳しいことはわかっていません。
そこで私たちは,以下の4つを目的とした研究を行っています.
1.アオリイカ3種を正確に判別できるDNA鑑定方法の確立
2.日本沿岸における3種の分布と各海域の優占種を明らかにすること
3.異なる海域間における繁殖集団の交流の有無
4.アオリイカ3種の産卵生態の異同を明らかにすること
アオリイカをもっと知りたい方へ…
- 日本水産資源保護協会 わが国の水産業「あおりいか」
- 上田幸男/海野徹也 「アオリイカの秘密にせまる―研究期間25年、観察した数3万杯」
人工産卵礁を用いたアオリイカの繁殖サポート
海の中の「木」に産卵するアオリイカ
アオリイカは海の中の構造物に卵を産み付けます.その性質を利用して,人工産卵礁による繁殖サポートが進められています.アオリイカは春から夏にかけてガラモ場やアマモ場に産卵しますが,その産卵場は高水温や栄養塩不足で減少しています.減少する産卵場を補うべく,漁業者は自ら進んで繁殖サポートを行っています.木材を利用した人工産卵礁を,特に「イカ柴」と呼びます.
アオリイカの解剖図
オスの生殖器官
アオリイカの解剖図
メスの生殖器官
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